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第9話 調査員の胃は休まらない1

作者: 月城葵
last update publish date: 2026-06-17 05:31:31

 街道をトボトボ歩きながら、片手にテッタの弁当。

 仕事帰りに食うメシってのは、やっぱ格別だな。

 まずは、おにぎりをひと口。

「……うまいな」

 塩気がちょうどいい。

 噛むたびに米の甘さが広がって、胃袋がやっと人間に戻った気がする。

 次は唐揚げ。

「……これもうまいな」

 衣はカリっと、中身はジューシー。

 テッタの飯は裏切らない。

 戦いの後のご褒美ってやつだ。

 しかも、前回よりも美味くなってる。

 冒険者たちの胃袋を、掴んで離さないのもうなずける。

 だが、弁当を食い終わる前にふと視線が袋へ向く。

 中には南の森で拾った、あの黒焦げの金属片。

 見なきゃよかった。

 どうせ気になるに決まってんだから。

 仕事終わりのいい気分が台無しだ。

「……しゃーねぇ、ゼットの店に寄ってくか」

 腹は満たされても、頭の中はモヤモヤしたまま。

 こういう時の嫌な予感は、大抵当たる。

 晴れない気分のまま、南門に到着。

 見えてきたのは、いつも通りの門番二人。

 槍を肩にのっけて、暇そうに立っている。

「おう、アル。散歩は終わったのか?」

 皮肉返しかよ。

 俺が森で汗かいてた間、お前らは門で日向ぼっこ。

 まあ、仕事だから仕方ねぇが。

「ああ、散歩の後のテッタの弁当は最高だったぜ。あの唐揚げ、もう売り切れてるかもな」

 にやりと告げると、門番たちの顔が微妙に引きつる。

 昼飯前の兵士にテッタの唐揚げの話題は、最悪の嫌がらせだ。

 あの悔しそうな顔、すぐにでも走って買いに行きたいのが丸出しだな。

 まあ俺のせいじゃない。

 早いもん勝ちってやつだ。

 さてと……ゼットは店にいるだろうか。

 ◇ ◆ ◇

 街の裏通りにある小さな店。

 扉を開けると、いつも通りの陰気な顔がこっちを迎えた。

 いい奴なんだけどな、顔で損してる典型だ。

「ゼット、これ見てくれ」

 俺が声をかけると、ゼットは手のひらを突き出して制した。

「……鑑定か? それとも私見か?」

 こいつの私見は、いつも「魔道具っぽいかどうか」しか言わない。

 つまり実質ノーサービスだ。

「鑑定だ」

 頷いたゼットが短く返す。

「見せろ」

 布から金属片を取り出すと、彼は指先で軽く弾き、じっと眺める。

「……魔道具の残骸だな」

「似たようなの見たことあるか? そうだな……昨日とか?」

 ゼットがふっと笑った。

 陰気な顔に似合わず、こういうときだけ妙に楽しそうに見える。

「ウィザーズから持ち込まれた物に、似ているな……ほぼ同系統で、同じ金属が使われている」

「どんな効果かわかるか?」

「いや、こいつからはわからん」

 ここでちょろりと財布から銀貨を追加。

 ゼットは渋い顔をしつつも受け取る。

「昨日の物と同様だと考えると……精神作用があるように思える」

「……やっぱりな」

 思った通りだ。

 血走った目と、おかしな行動。

 説明はつく。

「あんがとよ。こいつもそのうち、またここに持ち込まれるかもな」

 金属片を布にくるんで仕舞うと、ゼットはすっと手元の銀貨を半分押し返してきた。

「では、そちらからも取るとしよう」

「サンキュー」

 ほらな。

 ゼットって、ああ見えていい奴なんだよ。

 用も済んだし、帰ろうかと思ったんだが、ゼットが急に「ちょっと待て」と声をかけてきた。

「……なんだ?」

 机の引き出しをガサゴソ探ると、ビー玉みたいに小さな石を取り出してきた。

「これを持っていけ」

 掌に乗せられたそれを、まじまじと眺める。

「なんだこりゃ?」

「精神作用を妨害する……全く使えない魔道具だ。すぐ壊れる」

 へえ。

 普通は、役に立たないってことか。

 ……逆に言えば、壊れたら場合、誰かが仕掛けを使ったって証拠になるわけだ。

「なるほど。壊れたら犯人が近くにいるってことか」

 ゼットは小さく頷いた。

「…………」

「ありがたく貰って行くぜ」

 石を懐にしまいこみながら、俺は苦笑する。

 ほらな、ゼットって、ああ見えてイケメンだろ?

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